治療法としてのマインドフルネスの誕生


1. マインドフルネスのルーツ

マインドフルネスのルーツは、2500年以上に前にゴータマ・ブッタが、それを通じて悟りを得た古代インドの修行法である「瞑想」にあります。

マインドフルネスとは、その仏教瞑想の中核概念であるパーリ語の “sati” の英訳で、「気づき」を意味します。

インド東部地域で生まれた仏教は、ブッタの没後、大乗仏教と上座部仏教とに分裂しました。

そして、他者の救済を目指す大乗仏教は、膨大な大乗経典を創作しつつ中央アジアと東アジアに、また、初期仏教の名残をより多く残し、自己の覚り目指す上座部仏教は東南アジアにと、それぞれ広がっていきました。

 

2. 仏教瞑想の伝達と一般化

 

瞑想という修行法をより重視する上座部仏教は、主にスリランカを経て、ミヤンマー、タイなど東南アジア諸国に伝わりました。

秘密性を帯びていた瞑想が一般化されたのは、19世紀のミヤンマーにおいてと言われています。それまで門外不出とされてきた上座仏教の伝統的瞑想法が、広く国民に門戸を開いたのです。

 

その後、瞑想は1970年代初頭に米国に渡ります。それはベトナム戦争(1955~1975年)がやっと終結しつつあった時期で、アジアに滞在する若いアメリカ人の中にテーラワーダ瞑想を学び始める人が出始めた時期でもあります。

 

3. 1970年初頭、米国に渡った瞑想

 

米国での瞑想発展の拠点となったのはインサイト・メディテーション・センター(Insight Meditation Society, IMS)です。ミヤンマーで修行したJ. Kornfieldら3人の若者によって、1975年にマサチューセッツ州に創設されました。

 

それより少し前に米国では禅の瞑想が人気を博し始めました。次のような人々の活躍によるものです。

  • 臨済宗の流れをくむ仏教学者鈴木大拙(1870ー1966)
  • サンフランシスコ禅センター、禅マウンテンセンターなどを開いた曹洞宗禅僧の鈴木俊隆 (1905-1971)
  • 社会参加仏教を提唱したベトナムの禅僧ティク・ナット・ハン (Thich Nhat Hanh 1926ー2022)
  • コロラド州で瞑想法を教えチベット仏教僧チョギャム・トゥルンパ (Chogyam Trungpa 1939-1987)

4. 治療法としてのマインドフルネスの誕生

1979年、ヴィパッサナ瞑想、禅、ヨガの瞑想を学んだマ分子生物学者カバットジンは、慢性疼痛などに苦しんでいる人々のために、さまざまな瞑想法を組み合わせた先駆的で独創的な緩和ケアプログラムを創始しました。

米国はキリスト教徒が圧倒的多数を占める国です。カバットジンは、プログラム作成にあたり、より広範な人々が利用できるように、宗教色を感じさせないように細心の注意をはらいました。

 

その結果、生まれたのが宗教色のない、治療法としての「マインドフルネス・ストレス軽減法(Mindfulness based Stress Reduction, MBSR)」です。

 

5. カバットジンのマインドフルネスの定義

 

マインドフルネスを西洋の緩和ケアの現場に適用したカバットジンは以下のように定義しています。

 マインドフルネスとは、今現在の瞬間瞬間の体験に、意図的に、価値判断することなく注意を払うことによる「気づき」。

 

そして、マインドフルネス瞑想法とは:

 「今」という瞬間に、完全に注意を集中するという方法で、仏教徒以外の人が普通の生活に広く応用できる普遍性を備えているもの。

 

ストレス低減法プログラムの構成要素

  1. 普段の呼吸瞑想法:呼吸を意識し、呼吸にともなった生じてくる感覚を感じとる。
  2. 静座瞑想法:思いから解放されると、ありのままの自分が見えてくる。
  3. ボティースキャン:身体の下から上に向かって注意を移動させながら、緊張感や痛みを捕獲して、それを頭のてっぺんまで運んで、呼吸を使って身体の外に吐き出してしまい、身体を浄化する。
  4. ヨーガ瞑想法:ゆっくりした、穏やかなストレッチや筋肉強化トレーニングを通じて、存在感が開発されていく。
  5. 歩行瞑想法:日常生活の中で、自分を取り戻す。

6. カバットジンの基本的な考え方

  • 瞑想とは宗教を超えた普遍的なものです。
  • 瞑想とは「意識的に心や体を観察して、今という瞬間から次の瞬間に向けて体験したことを、あるがままのものとして受け入れるプロセス」。
  • 「心とは勝手にさ迷い歩くもの」ということを受け入れる。
  • 瞑想とはより自分に近づくこと、人は「自分らしくなる」ことしかできない。
  • 瞑想、続けることだけでは不充分。自分に対するある種のイメージを持つことも必要。
  • 例えば、心の平和、活き活き、くつろぎ、優しさ、落ちつき、安定など。このイメージは、自分にとって最も大切なことでなければならない

7. 呼吸瞑想法を生活の共にすることのメリット

  • 呼吸を意識すれば、「今」と「ここ」に注意を集中することができる。
  •  〃 自分に集中することができる。
  •  〃 心と身体の落ちつきがえられる。
  • 自分の思いや感じ方を、非常に落ち着いた状態で眺めることができる。
  • 心中にいつも去来しているいろいろな心配ごとや気がかりなことから、自分を解き放つ力を与えてくれる
  • ものごとを、より洞察力に富み、より明確に、より大きな視点でとらえることができるようになる
  • 適切な対処の仕方を探し出し、選択するという余裕が生まれる。

出所:カバットジン著「マインドフルネスストレス低減法」