5つのパワークエスチョン
良い質問はしばしば答えよりも強力である。
質問は私たちの思考、感情、行動に影響を与え、ときには、「頭にガツンと一撃」食らわせたようなパワーを発揮することもある。そうした質問を本書では「パワークエスチョン」呼んでいる。本章では、その中から基本的なものを選んで5つだけご紹介したい。
1.「君はどう思う?」
あまりにもありふれた質問なので「これがパワークエスチョン?」と意外に思われるかもしれない。だが、この質問はパワークエスチョンのさらに一段上をゆくスーパー・パワークエスチョンなのである。
もし普段のあなたが「話す」タイプの上司だったとしたら、こんどぜひ部下に対して使ってほしい。特に日本の社会では、意見(特に批判的な意見)を言わないことを相手に対するマナーや配慮と取り違えている人が少なからずいる。また、上司にあたる人に対しては、「触らぬ神に祟りなし」と無意識のうちに発言を押し殺してしまう人も多い。そうした人たちにこの質問は威力を発揮する。
「ところで、君はどう思うか?」という質問が与えるインパクトはすさまじい。あなたから突然、君はどう思うかと聞かれた部下は「えっ!」と一瞬耳を疑うにちがいない。そして考え始める。この質問のすごいのは、相手に考えさせること、つまり「考える」という脳の高度の活動を開始するよう促すことだ。この質問は、部下にもっと考えてもらいたい、もっと意見を言ってもらいたい、プロジェクトや問題解決プロセスに主体的に参加してもらいたいなどと思ったときにはいつでも使える万能ツールである。
例えば、こんな使い方である。
課長 「部長、~~の問題への対策ですが、どうしたらいいでしょうか?」
部長 「君はどう思う?」
課長 「まだ分析の途中なのですが、A案は~~で、B案は~~だと思います」
部長 「なるほど!」と笑顔でうなずく。
(省略)
「君はどう思う?」が繰り返されると、やがて部下は問われそうなことを事前に調べ、自分なりの意見を準備するようになる。部下としての立場からだけではなく、一段上の上司の立場からものごとの良否を考えるようになる。質問は、相手方の自主性や主体性刺激し、さらなる内省や行動へと動機づける機能をもっている。このことは、有能な後継者を育てたいと思っている企業の経営者やリーダーの方にとってとても重要だ。
▽ どんなときに使えるのか?
・部下から何か相談を受けたとき、
・皆で問題やその解決策について話し合っているとき、
・あなたがご自分の意見を伝えたあとで、
・話し合いにもっと積極的に参加してほしい人に。
▽ 別の言い方
「あなたはどう思いますか?」
「君の意見を聞かせてくれ」
「君ならどうする?」
「諸君はどう思うか?」
「別の意見はないか?」
2.「君はどう提案する?」
上記の「君はどう思う?」という質問に対して、あまり真面目に考えていない部下や、当たり障りのないどっちつかずの態度でとりあえずこの場を切り抜けられればと思っている部下には、ぜひこの質問をしてみたい。
また、批評家や評論家的なコメントをする部下がいるかもしれない。そうしたコメントもときには大切ではあるが、ビジネスの問題を解決しなければならないときはそれでは困る。具体的な解決策を提案してもらわなければならない。この質問を増やすことで、部下は自然により真剣に、より主体的に問題に取り組む姿勢を身につけていくだろう。
▽ どんなときに使えるのか?
・相手の発言のあとなら、どこでも、いつでも。
・発言の内容をもっと詳しく知りたいとき。
・相手にもっと具体的、実践的に考えて欲しいとき。
・プロジェクトにもっと主体的に参加してほしいとき。
◇別の言い方
「君ならどうする?」
「君ならどう解決するか?」
「君なら具体的にどう動くか?」
3.「なぜそう思うのか?」
この質問は、相手の意見や考え方の理由や根拠を問う質問である。相手はこの質問で、論理的な思考力と説明能力とが問われる。ものごとを論理的に考えているかどうか、また、説得力のある筋道の通った説明ができるかどうかが試される。
大量で多種多様な情報が溢れ、かつ急速に変化していく、とても忙しい時代である。私たちは、必要充分な情報を素早く集め、軽重や緊急度などから選別し、適切な基準によって解釈・評価し、因果関係を明らかにしたうえで適切な判断を下さなければなりません。職場おける課題や問題の解決に、論理的な思考能力は欠かせない。
また、論理的な思考能力はコミュニケーションスキルとしても欠かせない。社内で他者と意見交換をするとき、施策を提案するとき、他の部門と連携して動きたいときなどには、相手が納得できるように根拠を示し、筋道立てて説明することが求められる。
論理的な思考能力がたいせつなことは言わずもがなだろう。問題はどうしたらそうした思考能力を鍛えることができるのかである。
「なぜ」質問は、部下の論理的な思考能力を育てる最も効果的なツールのひとつである。上司が「なぜそう思うのか?」という質問を繰り返すことによって、部下は自然にものごとを論理的に考える習慣がついていくだろう。
▽ どんなときに使えるのか?
・いいかげんな、あいまいな意見を言う相手に?
・相手が感覚的に、あるいは直感で発言しているとき。
・相手が完全にコミットしているかどうか確かめたいとき。
・疑念を一掃し、白か黒かをはっきりさせたいとき。
・相手が正直に本音を言っていないと感じられたとき。
◇別の言い方
「賛成か、反対かのどちらかしかないとしたら、どっちですか?」
「もし、あなたが私の立場だったら、どちらを選びますか?」
4.「あなたの夢は何ですか?」
職場の表面的なお付き合いのなかでは、この質問をする機会はそう多くはないかもしれない。しかし、もしチャンスがあったら是非投げかけてみたい質問である。
人間、いくつになっても子供心はどこかに残っている。この質問は相手の脳細胞のネットワークのどこかにかすかに残っている子供心を刺激するはずである。
ウォルト・ディズニーがボブ・トマスに語った言葉を引用しよう。
「ディスに―ランドは子どもだけを相手に作っているんじゃない。人はいつから子どもでなくなるというのかね。大人の中に、子どもという要素がすっかり消えてしまってると、君は言い切れるかい? いい娯楽ってやつは、老いも若きも、誰にでもアピールするものだ。親が子ども連れで来られるところ、いや、大人どうしで来ても楽しめるところ‥‥。僕はディズニーランドをそんな場所にしたいんだ」
ウォルト・ディズニー
どんなに苦しい状況にあっても、夢を描くことで、私たちには未来への希望と今を生きるエネルギーが生まれてくる。夢は私たちが生きていくうえでとてもたいせつである。子供心はその夢をはぐくむ土壌である。
◇どんなときに使えるのか?
・お付き合いしている人や友人とのつながりを深めたいとき。
・その人が情熱や願望を取り戻すのをサポートしたいとき。
◇別の言い方
「あなたが一生で、これだけはやり遂げたいということは何ですか?」
「あなたが仕事を通じて最終的に得たいものは何ですか?」
5.「まず、どこから始めますか?」
夢や希望を語ることはできても、それを計画に落とし込むことはできても、実行するための具体的な行動を起こせないで終わる人は決して少なくない。
そうした人は、行動を起こさなければ何も起こらないということを頭ではわかっている。だから説明や説得はあまり効果がない。その代わりに、「まず、どこから始めますか?」というシンプルな質問を投げかけたい。
夢や計画は大きくてもいいが、最初の一歩は「小さければ小さいほど」、タイミングは「早ければ早いほど」実現する可能性は一般的に高くなる。
◇どんなときに使えるのか?
・夢や希望や計画を聞いたあとで。
・具体的な行動レベルで考えてほしいとき。
・なかなか動きださない人の背中を押したいとき、相手の発言のあとで。
◇別の言い方
「最初はどんな一歩ですか?」
「いつ始めますか?」
「明日から始めるとすれば、ますは何をしますか? 」
「来週一週間で何をしますか? 」
以上